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手を引っ張るモノ その1

2017.03.12.Sun.16:30
672 :1/12:2009/10/05(月) 16:12:28 ID:9IzgCcHu0

イイハナシスレからコピペ

私の母方の実家は、ある山のふもとの温泉街にあります。
そこから歩いてすぐの山は、湯治客のためにとハイキングコースとして道が敷かれ、
子供一人でも難なく行けるくらいの緩やかさなのですが、
その道を少しそれると、そこは舗装もされていない、
道と呼ぶのもためらうような、山道ケモノ道が森の奥深くまで続いているのです。
そこが祖母の家へ泊りがけで来ている間、当時小学二年生だった私の遊び場でした。

ある日、私が川の流れる谷沿いを歩いていると、道の脇に古びた祠がぽつんとひとつありました。
伸び放題の草木に絡まれ、今にも朽ち果てそうな有様でしたが、
祠の中には、小さなお地蔵様が一体、鎮座しています。
苔にまみれたみすぼらしいなりではありましたが、私はお財布から小銭を一枚とり出し、
お地蔵様の足元に置きました。
当時の私は、特に信心深いというわけでもなく、
ただ『お賽銭をお供えする』という、行為そのものが面白かったのだと思います。

その時もお賽銭だけお供えすると、手を合わすこともせず早々に立ち去ろうとしました。
すると、不意に誰かに手を掴まれたのです。
いえ、正確には手を掴まれて、後ろに引っ張られたような気がしました。
そう、そんな気がしただけです。だって、この場には私以外、誰一人としていないのですから。

その後、ふもとの家まで戻った私は、玄関前で鉢合わせた祖父は無視して、
台所で晩御飯の準備をしている祖母に、ふと気になった山の中の祠について尋ねてみました。
というのも、あの祠のある辺りにはあまり近付かないようにと、普段から言い聞かされていたからです。
厳しい祖父にそのことを話せば、きっと祠の話の代わりにお説教を聞かされることでしょう。
その点、祖母は山へ入ったことを咎めるでもなく、けらけらと笑って祠の由来を教えてくれました。


673 :2/12:2009/10/05(月) 16:13:35 ID:9IzgCcHu0
昔、と言っても遠い昔のことではなく、戦後すぐくらいの頃。
まだろくに道も整備されていない山の中で、一人の女の子が行方不明になりました。
ふもとの町では大人たちが集められ、山狩りまで行われましたが、結局女の子は見つからなかったのだそうです。
この地方には古くから山神様の言い伝えがあり、町の人たちは、
「あの子は神様に連れて行かれて、あの山の山神様になったんだよ。きっと、これから私たちのことを守ってくれる」
と、女の子の両親を慰めたのだそうです。

しかし、それからしばらくたった後。再び山で、今度は男の子が二人、行方不明になったのだそうです。
その内一人は無事に山を下り、もう一人は谷底の川に流されて、ずっと下流で遺体となって発見されました。
助かった子から話を聞くと、山で道に迷い崖近くを歩いている時、誰かに腕を引っ張られたと言うのです。
幸い、彼は谷とは見当違いの方へと引っ張られました。
けれどその時、一瞬だけ見えたもう一人の子の姿は、
まるで彼も見えない誰かに引っ張られたような、とても不自然な様子だったのだそうです。

警察はもちろん「そんなことはありえない」と言い、
きっと前の日まで続いた雨で地面が緩くなっていて、なにかの拍子にくずれたのだろう。そう結論付けました。
けれど町の人は違いました。
なぜなら、助かった男の子の右手首には、手の形をしたアザがくっきりと残されていたからです。
まるで誰かに掴まれたような……。

そして、それからも度々同じようなことが起こりました。
山へいった子供が、崩れてきた土に潰され、あるいは川に流されて、その命を落としてしまうのです。
みんながみんな助からなかったわけではなく、中には山で迷いながらも無事に戻ってくる子もいました。
しかし彼らはみんな、口をそろえてこう言います。
「山の中を歩いている時、誰かに手を引っぱられた」
そして彼らの右手首には、決まって手の形をしたアザがあるのです。

「もしかしたら、先に行方不明となった女の子の崇りなんじゃ?」
いつしかそんな噂が町に広まり、大人たちで話し合った結果、
最初の男の子が犠牲となった崖の近くに、小さな祠とお地蔵様を置いて、崇りを鎮めようとしたのでした。


674 :3/12:2009/10/05(月) 16:14:40 ID:9IzgCcHu0
「けど崇りは鎮まらないでね。今でもたまに悪い子がいると、手を引いて山へ連れてっちゃうんだよ」
祖母はおどけた調子でそう締めくくりますが、私は怖くて何も言えませんでした。
私は祖母に祠のことを訊いただけで、誰かに手を掴まれたとは言っていません。
とても気味が悪く、こういう時に限って周りがとても静かに感じます。
けれど怖がっていることを悟られたくない私は、平気なふりをしつつ、
「その後、誰かが連れていかれたことはあるの?」とか、
「連れて行かれた子は悪い子だったの?」などとしつこく祖母に尋ねます。
祖母は笑って、
「そんなに気になるなら、今晩の宴会にくる伯父さんに訊いてみなさい。
 伯父さんは昔、山で手を引かれたことがあるんだよ」
と言いました。


675 :4/12:2009/10/05(月) 16:15:40 ID:9IzgCcHu0
その晩。一族が集まっての宴会に、伯父さんもちゃんと出席していました。
私は祖母に言われたとおり、伯父さんに『手を掴まれた』時のことを訊いてみました。
思えばこれが間違いだったのです。
伯父さんはその手の話をとっても好み、さも恐ろしげに語って聞かせるのが大好きでした。

「いいか。あの祠に近付くとな。
 あの山で遭難した女の子と、それに連れ去られた子供たちの崇りを受けるんだ。
 みんなで手をぐいぐい引っぱって山まで連れてって、そこで死んだ子供たちに取り囲まれて、
 気づいたらお前もその子たちの仲間になってるんだ。
 山から逃げても無駄だぞ。そいつらはお前が家で寝てる時、こっそりと入ってきてさらっちまうからな」

今にして思えば、それは怖い話をして、二度と私をそこに近づけまいとする、大人の浅知恵だったのでしょう。
けれども私はその話が怖くて、それを聞いた後は、宴会で明々と賑わう広間から離れることができません。
しかし宴もたけなわを過ぎると、母親から「もう寝なさい」と寝床へ追いやられてしまい、
私はひとりで、寝室として使っている部屋へと戻りました。

母親の実家は地元の名家で、家は屋敷と呼んで遜色ないほどに広いのです。
屋敷には宴会のあとで酔いつぶれた人たちが泊まれるよう、二十畳ほどの広めに造られた和室がいくつかあり、
私が寝室としてつかっているのも、その内の一つでした。
普段は広い部屋を独占していることに高揚する気分も、今はどうにも頼りなく、不安な気がしてなりません。
私は縁側の廊下へ続くふすまや障子を全て閉じ、
常夜灯をつけたままで、祖母が用意してくれていた布団にもぐりこみました。


676 :5/12:2009/10/05(月) 16:16:44 ID:9IzgCcHu0
どれだけの時間が経ったのでしょうか。
ふと、私は目を覚ましました。
屋敷の中は静まり返り、人の気配はありません。
どうやら既に宴会は終わり、みんな寝静まっているようでした。
私が普段、夜中に目を覚ますことなど滅多に無いことです。
あるとすればせいぜい、起きている誰かが物音を立てた時くらい。
しかし、全員が寝静まった屋敷の中で、そんな物音を立てる者など……。
……ギっ……………………。
どこかすぐ近く。まるでそこの障子の向こう、縁側を通る廊下から、床が軋むような音が聞こえました。
両親か祖父母、でなければ泊まっている誰かがトイレに起きてきたのかもしれない……とは思いませんでした。
一階のトイレは、風呂場など水周りの集まる屋敷の北側と西側にしかありません。
私がいる寝室は屋敷の東側、しかもその一番端。誰であろうとこの廊下を通るはずはないのです。
そう、この部屋に来ることが目的である以外は。
……ギっ……………………。
不意に音が止みました。私は廊下へつづく障子に背を向ける形で横になっています。
すっ、と木枠が滑らかに動くような音が聞こえた気がして、みしり、と畳の軋む音が聞こえた気がしました。
ふわ、と頬を風に撫でられたような気がして、誰かの気配がすぐそばにあるような気がしました。
私は目を閉じたまま、背後にいる誰かに起きていることを悟られまいと身を堅くします。
けれど妙に高鳴る心音で、わずかに震える肩の揺れで、
目を覚ましていることがばれるのではないかと思うと、気が気ではありません。
それと同時に、背後にいるのはどんなやつなのか。
顔は、背は、太っているのか痩せているのか、恐ろしい姿なのかそうではないのか、とても気になります。


677 :6/12:2009/10/05(月) 16:18:00 ID:9IzgCcHu0
両者の間に挟まれた私は、せめてどんな体格なのかくらいは見てみようと、
背を向けたまま薄目を開けて、相手を盗み見ようと考えました。
目いっぱい視界を動かせば、頭の天辺くらいはみえるだろう。
そして相手の顔までは見えないのだから、相手に悟られることもないだろう。
そう思った私は、ほんのわずかにまぶたを開き、視界を背後へと移し、背後にいるソレと目が合いました。
ソレは私の上に大きく身を乗り出し、顔をのぞきこんでいたのです。
ソレは私の顔をのぞきこみながら、にんまりと笑いを浮べていました。
私はとっさに目を閉じ、震えそうになる全身を必死で押さえつけました。
ちらりと見えてしまった顔は女の子で、切りそろえた前髪と肩から垂れる長い黒髪、そして着物のような襟。
見ることができたのはそれだけでした。そして、それだけで十分でした。
それだけで私は、やっぱり女の子の霊なんだ、やっぱり自分を連れて行くために来たんだと、
そう確信するのには十分だったのです。
大声をあげるべきか、けれどそれでは相手を刺激してしまわないだろうか、このままだと自分はどうなるのか、
まとまらない考えが頭の中を巡ります。

そして――唐突に、右手をぐいっとつかまれました。
物凄い力で、ぎりりと腕が痛むほどでした。
たまらず私は「痛いっ、痛いっ」と叫び、その手を振りほどこうともがきます。
けれど身体は上手く動かず、力を入れることが出来ません。
喉に何かが張り付いているように、あげたはずの叫びも声にはなりませんでした。
それでも私はもがき、もがき、もがき。
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