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ごうち その2

2017.02.21.Tue.16:30
861 :添い寝:2007/03/29(木) 15:37:36 ID:RJO9BJ3Y0

結局その日は時間が遅いこともあって、翌日改めて現地へ向かうことになった。
そのときは俺も参加した。というより、させて貰った。
オオサキ氏は30そこそこで、背が高く端正な顔立ち。
礼儀も正しく好印象であったが、それだけに全然霊能者らしくない。

彼はアキバの親父さんが分譲した区画と、ウエノさんが目星をつけた荒地(つまり、ごうち)を見て回わった。
見歩いている最中はまったく無言であったが、一通りめぐると口を開いた。
「社長(アキバのこと)、ちょっと協力していただきたいのですが」
「できることなら、なんでも」
「この土地と周辺の昔の形を調べられないですか?
 できれば戦前、少なくともニュータウンが計画される前の状態が知りたいのです」
「できると思います」
「それなら、お願いします。ただし時間がない。急がせて申し訳ありませんが、至急お願いします」
その後、彼はウエノさんに言った。
「ここ、結界が張られていますね。分かりますか?」
「ええ、分かります。でも複雑な形に張られているようですね」
「どういうことでしょう?」と、俺はふたりに聞いた。
「いえ、今ははっきりと答えられません。
 社長が昔のここ周辺の状態を調べていただければ、分かってくると思いますので、少しお待ちください」
とオオサキ氏は答えた。
「それでは社長、分かりましたら至急連絡をいただけませんか。夜中でもかまいませんので」

翌日、アキバはオオサキ氏に依頼されたことを早速調べ上げ、彼に連絡した。
そして、『資料をファックスで送って欲しい』というので送った。
『結論が出ましたら、こちらから連絡いたします』
とのことで、実際に連絡が来たのは5日後であった。
その間、オオサキ氏は彼なりに郷土史を調べたり、カンダ婆さんに会いに行ったり、
新Q地区に古くから住む人に話を聞いたりしていたという。
その間、幸運にも例の区画から死者は出なかった。


862 :添い寝:2007/03/29(木) 15:38:37 ID:RJO9BJ3Y0
その日の夕刻、オオサキ氏、ウエノさん、アキバ、俺、なぜかオオツカ氏、
そしてシブヤさんという70歳くらいの男性が、アキバの事務所に集まった。
このシブヤさん、オオサキ氏が連れてきたのだが、新Q地区の古くからの住人である。
オオサキ氏が語りだす。
「まず『ごうち』とはどんな意味であるか、どんな字を書くかですが、
 一般的に『ごうち』と読ませるのは『郷地』、或いは状況を鑑みて『業地』などが思い浮かびます。
 時間がなかったので詳しく調べたとは言えませんが、私の推測では『児地』だろうと思います。
 読んでその通り、小さな子供を意味します。これが訛って『ごうち』となったのでしょう。
 或いは…可能性としては高いのですが、わざと訛らせたのかも知れません」
オオサキ氏はシブヤ氏に、「それではお話していただけませんか」と促した。
「みなさんは知っていらっしゃるようだが、あの土地には忌みごとを捨ててきた。
 で、何でそうなったのかと言えば、
 これは言い伝えだから本当かどうかは分からんが、『村八分』ってのを知ってるでしょう?」


863 :添い寝:2007/03/29(木) 15:40:20 ID:RJO9BJ3Y0
シブヤ氏の話をまとめると、
少なくとも明治より昔、あの地区で村八分を受けた家があった。
その折は天災続きで、村八分を受けた家はとても生きていけなくなった。
そこで村人に許しを請うのだが、村八分というのはされた側に問題がある。
それなら『心を入れ替えた誠意を見せろ』ということになった。
そこで村八分の家では、子供をひとり人柱に建てることにした。
それがどちら側の提案であるかは今となっては分からないが、一番小さい子供に白羽の矢が立った。
名主であったカンダ家が土地を提供し、人柱は建てられた。
そのおかげかどうかは分からないが、天災は収束し、その家も村八分を解かれた。

しかし、人柱を建てたその土地は、農地やその他実用なことには使えない。
祠を建てて子供を慰めようか、という案もあったが、
それでは人柱が記憶に残り、子供を生贄にした罪悪感が引き継がれる。
そうして、土地はそのままにされたのだが、曰くつきの土地であり、
いつの頃からか穢れた物や忌みごとを捨てる地となった。

シブヤ氏が子供の頃は『ごっち』という人もいたが、シブヤ氏がそのように言うと、「罰が当たる」と親に怒られた。
ある程度の年齢になったとき、『ごうち』とは子供のことを意味すると教えられた。
『ごうち』を丁重に管理しなければならないことは、集落の各家に伝えられているはずだが、
その謂れは、親の判断によって伝えられたり伝えられなかったりしているようだ。
話したがりとそうでない人がいるように、親がそうでないときは詳しい話は伝えられない。
初めのうちは、祟りなどを恐れて詳細に語り継がれていたのだろうが、それにも限度がある。
だから、土地の持ち主であるカンダ婆さんも、このことを知らなくても不思議ではない。
「俺らも、あそこで死人が立て続けにでているので、たぶん『ごうち』に関係があるのだろうと気を揉んでいた。
 俺らはもう歳だからいいとしても、そのうち子供や孫に害が及ぶんじゃないかと。自分勝手な考えだが」


864 :添い寝:2007/03/29(木) 15:41:40 ID:RJO9BJ3Y0
「ありがとうございました」とオオサキ氏が礼を言って、再び話しだす。
「いろいろな地方で、例えば道祖神などにそういったことを肩代わりしてもらう、といったことがありますが、
 これもそのひとつの形態といっていいでしょう。
 ただこの『ごうち』の場合、は成り立ちが極めて特殊ですが。
 それで、そうしたことをするためには、何か『代』が必要になるわけですが、
 土地自体が強力な『代』となりえます。
 しかし、昔あの辺りに住んでいた人々は、それをさらに強力なものにしようとしました。
 と言うより、強力なものにしてしまったといったほうが正確かもしれません」
彼はここで1枚の地図を取り出した。アキバが調べた、『ごうち』とその周辺の昔の地図である。
「これを見てください。これが『ごうち』本来の形です」
地図には赤鉛筆で線が引かれていた。


865 :添い寝:2007/03/29(木) 15:42:26 ID:RJO9BJ3Y0
「以前にあった雑木林との境、水路との境、隣地との境界を線引きすると、この通り、人の形になります。
 しかも、頭の大きな幼児の形です。
 恐らくこれは偶然ではなくて、当時の人が意識的に形を作ったのでしょう。
 祠など、目に見えるものを残すのは嫌だが、それでも罪悪感は残る。
 それで、せめてもの標しに、土地を子供の形に模った。
 その後、この地が忌み的な場所となってしまったので、災いが起こらないように、
 或いはすでに何らかの災いが起こり、能力のある人物の助言を得て、土地を改造し結界を張った。
 人型も人形がそうであるように、「代」としては優秀なものです。
 つまり、土地を人型に囲い、その上で結界を張り、かなり強力な「代」としたのです。
 いや、なってしまったと言うべきでしょうか。
 これならば、ここに捨てられた念や不幸は外に漏れる心配がない。
 ただし、人型は「代」としては優れている反面、
 ややもすれば閉じもめた念を増幅させて、それが一人歩きしかねないといった欠点もあります。
 いわば諸刃の剣といったところです。
 だから、これでは篭った念が強くなりすぎて、ある日突然狂ったように暴れだす、ということにもなりかねません。

 そこで、巧妙な仕掛けを作った。
 この仕掛けこそが、誰だかは分かりませんが、能力のある人物のアドバイスによって作られたものでしょう。
 それがこの水路です。
 この水路は幼児の頭にあたる部分を通っていますが、ここの結界をわざと弱くした。
 そのため、飽和した念や恨み、穢れといったものは、ここから水路に流れ込みます。
 そしてこの水路は近くを流れるE川につながっています。
 こぼれ出た念を水に封じ込め、そのまま水やその他自然の力によって弱めながら海まで運ばれ、拡散される。
 実にうまい仕組みだと思いますよ」


867 :添い寝:2007/03/29(木) 15:43:04 ID:RJO9BJ3Y0
「俺もそれは知らなかった。気づかなかった」とシブヤ氏。
「『ごうち』を見たとき複雑な結界が感じられたので、地形を調べようと思ったのです。
 こういった言い方は不謹慎かもしれませんが、私にとっても思わぬ収穫でした」とオオサキ氏が言う。
「で、今回の出来事は、土地開発によってそれが壊されたから起こったのですか?」とアキバが聞く。
「まったくその通りです」
「それにしてもおかしい。それなら『ごうち』により近い区画や、隣接部分の多い区画に、
 より酷い災いが起こってもおかしくないわけですが、あそこだけに集中している」
「はい。それでは、これをご覧ください」
彼は、また1枚の地図を出した。
「これはアキバ社長のお父上が分譲した区画図ですが、これもどことなく人型に見えるでしょう?」
確かに、トイレを示すマークをいくらか崩したような形に見える。
「そして、『ごうち』とこの区画の位置関係は、このようになります」
また地図を出す。それには2つの土地が赤鉛筆で囲ってあった。
「これ、肩の部分にあたるところが隣接しているでしょう。
 母親、もしくは父親が、子供に添い寝をしているように見えませんか?」
「あっ!」と声があがる。
確かにそう見えた。病気の子供をいたわって、親が添い寝している情景が浮ぶ。
「管理がおろそかになって結界も弱くなり、所々綻びもでているのでしょう。
 さらに今は、念を逃がす水路は存在しません。
 だからその負の念は、隣の添い寝している人型へ移っている。
 人型から人型へ、他に流れ込むより自然だとは思いますよ。
 分譲地が人型になったのは偶然でしょう。
 しかしその結果、分譲地も『代』としての役割を受け持つことになってしまった。
 人型の分譲地に住む人たちも、人間である以上負の気持ちはあるはずで、
 忌みごとや昔でいう穢れももっているでしょう。
 そうしたことが念を増幅させてしまい、その偶然が今回の不幸なことを招いてしまったみたいですね」


868 :添い寝:2007/03/29(木) 15:44:07 ID:RJO9BJ3Y0
「・・・・」
俺もアキバも言葉が出ない。
「ことは緊急を要します。すでに10人が亡くなっている。
 明日にでも応急処置にしかなりませんが、簡単なお祓いをいたします。
 それから、これは私が強制できることではありませんが、
 『ごうち』を昔の状態に復旧したほうがいいと思います」
オオサキ氏によると、アキバの親父さんの死はこれとは関係がないとのこと。
人型の区画に長時間住んではじめて影響があるのであって、短期間入ったくらいでは命まで失うことはないだろう。
おそらく、医者嫌いだったのが原因ではないだろうかと。
しかし、神主は「そうかも知れない」と。
強力な念が流れ込む土地に対して、型どおりの儀式を行ったとしたら逆効果で、
「地鎮祭を見たわけではないから断定はできないが、影響はあったのではないか」と言っていた。


869 :添い寝:2007/03/29(木) 15:44:41 ID:RJO9BJ3Y0
その後。
アキバはオオサキ氏に正式なお祓いを依頼したが、彼いわく、
「依頼をされればやるが、それは一時凌ぎにすぎないし。報酬ももらわなければならない。
 それより、一日も早く土地を元に近いように復旧して、根本的に解決させることが重要。
 今では昔の風習が無くなっているのですから、元の仕組みを復活させれば、
 『ごうち』はその役割を終えて普通の土地に戻るはず。
 それなりの年月は必要だとは思いますが」

結果的に、土地を改良するといっても、役所の認可など様々な手続きがあるうえ、工事にも時間がかかるので、
アキバはお祓いを頼み、その後根本的な対処を行うことになった。
また、お祓いを頼んだのは、オオサキ・ウエノ両氏へのお礼の意味でもあった。

お祓いは、オオサキ氏が主導して、ウエノさんが補佐という形で行われた。
なぜかオオツカ氏も、お手伝いとして参加している。役に立ったのだろうか…?
また、ギャラリーにはカンダ婆さんも現れた。
そして、その後の土地改良計画を聞いて、「これで私も安心して死ねる」と笑った。

蛇足ではあるが、この後、オオツカ氏がオオサキ氏に弟子入りを願い出て、オオサキ氏は断るのに難儀したらしい。

土地の改良は、町とも相談した結果、
アキバ、カンダ婆さん、シブヤ氏をはじめとする、地元の古くからの住人の一部が出資し、
水路を戻し、木を植え、小さな公園と合わせて親水公園のようなものとして、それを町に寄付する形になった。
水路は多くの部分が暗渠となったが、オオサキ氏によれば「さほど問題はないだろう」とのこと。
ただし『ごうち』であった部分は、ビオトープのようなものにして、自然保護を理由に立ち入り禁止とした。
それは、その後1年のうちに行われた。

そして、それから約2年が過ぎましたが、人型の分譲区画で自然死以外での死亡は発生していません。
偶然といってしまえばそれまでですが、やはり怖かった・・・
(なお、人物はすべて仮名です。分かった方もいるとは思いますが、山手線の駅名から拝借しました。
 また、アルファベットも、頭文字や関係のある文字ではありません)
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